遁走曲風

 大学時代は文学部で心理学を専攻した。三年生に上がるときに専攻が選べる。本当は哲学に興味があったのだが、就職に不利だったし、哲学科はどちらかというと変人か落ちこぼれが行くと思われているくらい印象が悪かった。文学科でなければ、大多数は心理学を希望した。仲の良い友達の多くが心理学を第一希望にしたこともあり追従するように専攻を決めてしまった。成績が良くないと第一希望が通らないことがあるのだが、真面目に勉強してきたから最も競争率の高い心理学を難無く専攻することができた。だが、心理学には深く関心が持てなかったことに気付いたときは手遅れだった。大学生活後半の二年間は急に道のりが険しくなった。
 風間雄一は同級生だった。実は在学中の印象はかなり薄かった。無口で自分からは誰にも話しかけなかったと思う。風間は俺以外には友達がいなかったと思う。いや、一年生の時は普通の奴だった。しかし、次第に人を選び出したというか、交際を減らして行き、二年生になる頃にはまともに話すのは俺ぐらいになっていた。四国の田舎から出て来た俺はまだ純朴で摺れていなかったからだろう、俺には変わらず打ち解けた態度をとってくれた。
 でも、俺も他の奴らといる方が楽しいし、風間といると息が詰まる気がしたのは事実だった。風間を親友と数えるには躊躇したことを告白しよう。ただ、風間は信用できた。風間と過ごす時間は少なかったが、今になってみれば他の奴らと馬鹿な時間を過ごすよりも風間といた時間の方が有意義だったように思う。風間は勉強熱心だった。単位を取ることしか考えていない俺を何度も助けてくれた。
 そんな風間は三年生の夏以降、忽然と大学から消えてしまった。風間が大学に来なくなったことに気付いたのは十月になってからだ。誰も連絡が取れず、俺も風間の行方を探したが、足取りはつかめなかった。そのうち誰もが風間のことは忘れてしまった。

 

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