第三詩集『献呈歌』作品三


『詩人の恋』 Op.3-1 / 『預言の鳥』 Op.3-2 / 『暁』 Op.3-3

 

『詩人の恋』 Op.3-1

 

詩人が恋をするときは

切なき想ひ言葉に託し

女神の御名を綾なして

青き花添へ月夜に捧ぐ

秘めたるうたの憧れを

金色栄える翼に載せて

届けておくれ今宵こそ

言霊宿るさつきの風よ

 

読み方:御名(みな)/金色(こんじき)/言霊(ことだま)


 

『預言の鳥』 Op.3-2

 

香細しきかな君が髪

すれ違ひあれど幾月

忘れ得ぬ胸の高鳴り

漏れる溜息熱き想ひ

 

奥床しきは君がこゑ

官能の華のかんばせ

ふるへつつ訪れた夢

預言の鳥よいざ来れ

 

読み方:香細しき(かぐはしき)


 

『暁』 Op.3-3

 

 醒めるとゐない 君の温もり

 読みさしの本 折れた筆

 届かぬたより 忘れた名

 未完の奏鳴曲 切れた弦

 たほれた裸像 破れた絵

 犬のとほ吠え あをい月

 さまよふ胡蝶 白いゆめ

 佳人のひとみ 黒いあめ

 甘きくちづけ 燃えた灰

 醒めると失せた 君の思ひ出

 

読み方:奏鳴曲(そなた)


作者より作品三について

 3つの詩からなる作品三の題は『献呈歌』となつてゐますが、特定の人物に献じた詩ではありません。寧ろ3つの作品の詩情を統一する言葉として与へられた題とお考へ下さい。作品のそれぞれの題にはロベルト・シューマンの楽曲の名を見出すことが出来るでせう。その為、これらの詩が目指したところはシューマンの楽曲が与へるのと同じ感興であつたと云へますが、力及ばず幾分も実現出来てゐないかもしれません。3つの詩は恋の歌であると云へますが、その諸相は異なり、作品三の一が恋の初めの敬虔な気持ちと憧れを詠ひ、作品三の二は正に恋を手に入れやうとする予感、またはその瞬間を詠つたやうな曖昧な作品で、作品三の三もまた失はれやうとする恋の歌とも読めますし、あるいは喪失感を詠つた作品とも云へるでせう。ですから、これらの作品は恋の始まりから終はりまでを詠つた、ひと続きの連作として読んで頂きたいと思ひます。

 これらの作品には形式的に数々の技巧を凝らした積もりです。詩とは詩趣を味はふ文学的な藝術であり、言葉の律動や音韻を味はふ音楽的な藝術であり、切り詰められて書き記された文字を眺めて味はふ絵画的な藝術であると考へてをります。これらの詩は、全ての行の字数が統一されてをりますが、幾つかの文字を仮名にしただけと云ふ部分もあります。また、全ての詩句は5音と7音と云ふ古典的な日本の韻律で編まれてゐます。作品三の一の韻律は奇数行を7/5、偶数行を7/7で創りました。作品三の二の韻律は前半後半とも75/57/57/75で創りました。また、脚韻を前半では「い行」、後半では「え行」で創りましたが、効果は微々たるものです。作品三の三は、前後に7/7からなる句を配し、中は7/5で統一して諦観が出るやうに創りました。前半の「れた」の連続、後半の色による詩趣を汲み取つて頂ければ幸ひです。


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