ガルシン

(Всеволод Михайлович Гаршин、1855〜88)


『四日間』 "ЧЕТЫРЕ ДНЯ"

 ガルシンの出世作。露土戦争で足を負傷した一兵卒が、自分の殺めた敵兵の腐爛と共に薮の中で過ごした四日間の話で、冷静な描写が綺麗事でない戦争の現実を抉り出す。戦場で苦難を味はつたものだけが記せる得難い作品。[☆]

『邂逅』 "ВСТРЕЧА"

 赴任地で再会した学友が不正に良心を痛めない俗物と化してゐたことに愕然とする話。友は腐敗する社会の実像を突付け、教師として高邁な理想を抱く主人公を困惑させる。クルイロフの引用「だれもが潔白ぢやない」が象徴するやうに、帝政末期ロシアの歪んだ社会悪を断罪出来ないもどかしさが痛々しい。[☆☆]

『アッタレーア・プリンケプス』 "ATTALEA PRINCEPS"

 温室内の植物たちが織り成す寓話。抑圧された社会の中で、体制に反抗する気力のない仲間と決別し、唯一人温室の屋根を突き壊す覚悟をきめる棕櫚の大木。ナロードニキ運動の幻想と幻滅が込められた哀しき掌篇。[☆☆]

『赤い花』 "КРАСНЫЙ ЦВЕТОК"

 精神病を患つたガルシンのみが為し得た迫真の狂気の世界。この作品の妖しき魅力は赤い花に世界の悪の象徴させたことにある。主人公は自らの命と引き換へに赤い花の息の根を止め、世界の悪から守る「人類最初の戦士」を自ら任ずる。精神病患者の誇大妄想と読まず、帝政ロシア全体を精神病院と見なし、狂へる社会の悪に唯一人果敢に戦ひを挑んだ高潔な男の心象と読めば意味深い。[☆☆]

『ナジェジュダ・ニコラーエヴナ』 "НАДЕЖДА НИКОЛАЕВНА"

 藝術、友情、純愛が主題に添へられた野心作で、作品の規模から見てもガルシン随一の作品。画家ロパーティンは画題の理想的なモデルを求めてナジェジュダに出逢ふ。彼女は苦境から身を持ち崩した女であるが、藝術への奉仕により泥沼から這ひ出ることを覚えると同時にロパーティンへの想ひを知る。道化役を演じながらも深い友情を示すせむしのゲリフレイフ、ナジェジュダを紹介したことを悔いるベスソーノフの苦悩と嫉妬が入り交じり、破局へと突き進む。ファム・ファタールの一面を持ちながらも、ナジェジュダの悲劇的な純愛に浄化を見る。[☆☆☆]

『信号』 "СИГНАЛ"

 帝政ロシア社会の搾取と不正に誰もが不平を持つ中、粛々として働き、己の領分を楽しむセミョーンの姿には教はるところが大きい。最後に良心が残つたこの作品には救ひがある。[☆☆☆]


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