― サロン・ド・ソークラテース版 ―
英國の作家モームに『世界の十大小説』といふ著作があります。モームの向かふを張る積もりはないのですが、世界文学の最高峰は何かを考へたいといふ抗ひ難い思ひは読書人の業でせう。とは云へ、遺憾ながらサロン・ド・ソークラテース主幹は未だ『ユリシーズ』と『失はれた時を求めて』を読んでをりませぬ。そんな人間にこんな頁を作る資格なぞ露ほどもないのですが、上記十作品を全て読んでゐる方も稀でせうから何かの役には立つかも知れませぬ。「私が選ぶ十作」などはつい気になつて読んで仕舞ふものですから、この頁も気安い心持ちで見て頂く方がよいのです。上記十作品の中に未読作品がある方や、これから世界文学に挑戦しようとする方の指標になれば幸ひです。唯、英國の文豪のやうに結論としての選考ではなく、飽くまで私の読んできた作品の中からの名作を挙げたものとして、捉へて頂きたいと思ひます。ですから、10といふ数に拘泥はる積りはなく、今後追加して増えて行くことがありますので、ご了承下さいませ。 |
次に、涙を飲んで選べなかつた作品のことを述べたいと思ひます。まず、飽く迄小説を対象にしましたので、『イーリアス』も『オデュッセイアー』も『オイディプス王』も『神曲』も『ファウスト』も含まれません。これらが世界文学の最も重要な作品であることは忘れずに述べておきたいと思ひます。 |
さて、十大小説について少々述べてをきませう。ただし、内容については詳しく触れません。作品を読めばその凄さは分かるでせうから、蛇足を付け加へる必要はないと思ひます。ところで、十大小説にドストエフスキーの作品が3つもあるのは偏り過ぎではないかとお叱りを受けるかもしれませんが、主幹はどれかを削るくらいならひとつも挙げない方がましだと考へてをります。それくらいドストエフスキーは別格なのです。重苦しいドストエフスキーの作品を敬遠する方も多いと思ひますが、一度その毒に当たれば決して抜け出ることの出来ない魔力があります。特に最後の大作『カラマーゾフの兄弟』は空前絶後の作品で、十大小説中第一等の格付けです。魂の救済を扱ふ世界文学の最高峰であり、出来れば多感な青年時代に読むことを薦めます。既成道徳を乗超えることが出来るとする非凡人の思想を展開する『罪と罰』。新たな神になるために理論的に自殺を図る『悪霊』。何れ劣らぬ名作です。
我が門を過ぎるもの
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