"UN ÉPISODE SOUS LA TERREUR"『恐怖時代の一挿話』風俗研究の政治生活情景に分類。ギロチンが猛威を振つたジャコバン独裁時代の陰鬱な怪奇譚。国王ルイ16世が断頭台の露と消えた翌日、秘密裏に行はれた鎮魂ミサにおける猟奇的な描写は恐怖を通り越して荘厳ですらある。全体が死神に捕はれたやうな作品で気が滅入るが、最後にミサを依頼した男の素性が明かされる件で、老修道女を助けようとしたパン菓子屋の主人の恐怖の理由が瞭然とするやうに、謎の男に与へられた職務の悍ましさと堪へ難い絶望的な境地に対する悲哀が凄まじい佳作。[☆☆] "EL VERDUGO"『エル・ヴェルデゥゴ』哲学的研究に分類。ナポレオンのスペイン支配に抵抗した半島戦争の一情景を描いた劇的な掌篇。蜂起に失敗した名門一族の血を絶やさぬ為に課せられた親兄弟の処刑といふ劫罰は嗜虐が過ぎるけれども決して虚構ではないのだ。士官を助けたクララの愛憎が凄まじいが、心理を掘り下げた叙述がないので幾分物足らない。[☆] "GOBSECK"『ゴプセック』風俗研究の私生活情景に分類。高利貸ゴプセックを主人公にした最初期の傑作は、『人間喜劇』の枠組みに編纂される過程で極めて重要な位置を与へられた。『ゴプセック』は『ゴリオ爺さん』と表裏を成す作品である。ゴプセックが手形を発行したレストー伯爵夫人こそゴリオを死に追ひやつた娘アナスタジーなのだから。手形といふ猶予措置の金策に追ひ込まれた人々の軽薄と破滅が冷淡に描かれるが、唯一ゴプセックの信頼を勝ち得た若き野心家である代訴人デルヴィルとの交流から高利貸の透徹した生き様が浮かび上がるのが『ゴプセック』の醍醐味で、冷徹な人生の観察者ゴプセックの言動は凄みを帯びる。金の力に全てを集約した男の生涯は不毛で哀れであるが、他人の運命を握る権力の描写は恐ろしい。人称を掏り替へて行くバルザックの魔術的な語り口も特筆したい名作だ。[☆☆☆] "LA BAL DE SCEAUX"『ソーの舞踏会』風俗研究の私生活情景に分類。当初副題に「貴族院議員」が付いてゐた。フォンテーヌ伯爵の末娘で美貌のエミリーは我儘な性格が災ひして貴族との結婚に固執した。将来を属目される新興富裕層の好青年との恋の駆け引きも出自に拘泥はつた為に破談となり、投げ遣りに大伯父の老伯爵と結婚する。青年が貴族院議員になつた結末が語られ、人を見る目がない娘の驕慢と詰まらぬ条件を課した浅薄さを嘲笑ふ。[☆] "LA MAISON DU CHAT-QUI-PELOTE"『毬打つ猫の店』風俗研究の私生活情景に分類。『人間喜劇』編纂の過程で全巻の冒頭に置かれた作品。分析と分類によつて人物像を彫塑する『人間喜劇』の手法を呈示した作品と見なすことが出来る。時代から取り残された堅物の羅紗商人の生娘が、気紛れな画家の情熱的な恋慕に翻弄される悲話で、約束されてゐた平凡な幸福との対比が皮肉だ。気質が異なる男女の不相応な結婚の顛末は、燃えるやうな恋が生んだ奇蹟の肖像画の悲愴な末路と重なる。[☆☆] "UNE DOUBLE FAMILLE"『二重の家庭』風俗研究の私生活情景に分類。『人間喜劇』の重要人物グランヴィルが主人公であり、斬新な構成と描写によつて、愛人との出会ひ、不幸な本妻との結婚生活が語られる。当初は『貞潔な妻』といふ題名であつたが、何者も幸せにしない後味の悪い後日譚が追加されバルザックらしい因果応報の苦しみで終はる。修羅場の後、カロリーヌとグランヴィルに何があつたのか詳らかにされてはゐないが、結婚といふ制度に対するバルザックの敵意が感じられる。[☆☆] "SARRASINE"『サラジーヌ』風俗研究のパリ生活風景に分類。バルザックが得意とした多重性構造が最大限に活かされた名作。ロシュフィード侯爵夫人はランティ家の夜会で遭遇した醜悪な老人と絶世の美少年を描いた絵画の秘密を知りたがる。イタリア留学中に美しき歌姫に恋をしたフランス人彫刻家サラジーヌの物語が語られる。歌姫ザンビネッラがカストラートであつたといふ倒錯的な結末は、老人の正体と重なり衝撃的だ。[☆☆☆] "UNE PASSION DANS LE DÉSERT"『沙漠の情熱』風俗研究の軍隊生活情景に分類。沙漠に迷い込んだ一兵士が図らずも雌豹の洞窟で命を繋ぐ綺譚。人間も豹も愛情といふ本能を持ち合はせてをり、理性を超えた神秘的な生理を垣間見せる短篇。冷徹な叙述が沙漠の侵し難い美しさを助長する。[☆] "LE CHEF-D'ŒUVRE INCONNU"『知られざる傑作』哲学的研究に分類。画家の精神の中にのみ存在する唯一絶対の作品「美しき諍ひ女」。余りにも高い理想が生み出した幻想が招く絶望と悲劇。藝術家の気違ひじみた情熱を描いた作品であるが、その無上の価値は作中で展開する藝術論にこそある。画家ではないバルザックが述べた絵画論の驚くべき境地は、画家たちの書いた拙い著作の比ではない。「藝術の使命は自然を模写することではない。自然を表現することだ。君はいやしい筆耕ではない。詩人なんだ。」「あまりに深い知識は、無知と同様、一つの否定に到達するものさ。」と絵画を超えた藝術の奥義を示す箴言に充ち溢れてゐる。[☆☆☆] "L'AUBERGE ROUGE"『赤い宿屋』哲学的研究に分類。バルザックの作品に特徴的な多重構造を持つ名作。前半はある晩餐会でドイツ人が語つた綺譚で、財宝を持つ商人が猟奇的な死を遂げ金品が奪はれた事件で犯人とされた男の話である。罪人として処刑された男の最期に立ち会ひ、無実の真相を知つている語り手の話に異常な反応を示す男が同席してゐた。これを怪しむのが本作の真の語り手である。後半は真犯人だと確信した男タイユフェールこそ自分が恋慕ふ女の父であつたと知り、苦悶する話が立体的に交差する。この作品が哲学的研究に分類された理由は、処刑された男が一旦抱いた殺意だけで厳罰に価するか否か、犯罪者の父を赦し娘と結婚することは反道徳的か、といふ共通するふたつの命題にある。物語だけではなく、心に去来した精神的な犯罪は社会的な罪と成り得るか否かといふ主題までも重層化した傑作。[☆☆☆] "JÉSUS-CHRIST EN FLANDRE"『フランドルのイエス・キリスト』哲学的研究に分類。渡し船が悪天候に襲はれ転覆する。富める者と貧しき者が乗る舟で奇蹟が起きた。救はれる者とさうでない者の描写は常套的でバルザックにしては味はひに欠ける。[☆] "LE MESSAGE"『ことづけ』風俗研究の私生活情景に分類。情人を持つことが当たり前とされた当時の地方上流階級の典型が描かれてをり、愛の秘密を暗示する卓越した描写が見事だ。伯爵夫人の心尽くしが明かされた件に読者は機微の豊かさを見て取るだらう。[☆] "LA GRANDE BRETÈCHE"『グランド・ブルテーシュ綺譚』風俗研究の私生活情景に分類。当初『ことづけ』と共に『忠告』といふ作品として纏められてゐたが、紆余曲折の後、『続・女性研究』に編入された。従つて最終的には単独の作品とは扱われない。名医師ビアンションは廃墟となつた屋敷に魅了されるが、恐るべき曰くがあつた。妻の不貞に出くはした夫が、隠れてゐた間男を部屋ごと生き埋めにした壮絶な物語が明らかにされる。[☆☆] "MADAME FIRMIANI"『フィルミアーニ夫人』風俗研究の私生活情景に分類。美貌のフィルミアーニ夫人に入れ込んで散財した男の悲劇を描く為、容姿で男を誑かす悪女を様々な視点から浮き彫りにする特殊な技巧を凝らした作品と思ひきや、意外な真相に読者は翻弄されるだらう。高潔で純真なフィルミアーニ夫人の愛は、バルザック作品群の中で異色に映るから困つたものだ。[☆☆] "LE CURÉ DE TOURS"『トゥールの司祭』風俗研究の地方生活風景に分類。物語の導入は、善良だが少々勘と頭が弱い享楽主義者の助祭ビロトーが、下宿の主人ガマール嬢の不興を買ひ、追ひ出されるに至る話なのだが、後半、巨大な存在として立ちはだかるトルーベール参事会員の威容に作品全体の印象が集約されて行く。貴族社会と繋がりのあるビロトーは中流階級であるガマール嬢の期待を感じ取ることすら出来ない。トルーベールはガマール嬢の憎しみを利用して、子羊ビロトーから出世の養分を奪ひ尽くして行く。暗躍するトルーベールの爪はビロトーに救ひの手を差し伸べる貴族らまでを戦慄させる。作中唯一トルーベールの隠された素顔の奥を見破るブールボンヌ氏の助言空しく、トルーベールの戦略は恐るべき完成を見せる。積年の野望を不屈の意志で貫く男の暗い情熱に圧倒される名作。[☆☆☆] "LA FEMME ABANDONNÉ"『捨てられた女』風俗研究の私生活情景に分類。『ゴリオ爺さん』で圧倒的な存在感を示したボーセアン夫人の後日譚であるが、執筆は本作の方が先で、バルザックの凄みを改めて思ひ知る。ピント侯爵に捨てられ失意のボーセアン夫人が隠遁先に選んだクールセルが舞台だ。好奇心から近付いてきた若きニュエイユ男爵の熱意に応へ幸福な年月を過ごすが、ボーセアン夫人は永続的な愛を期待してゐない。ニュエイユが詰まらぬ結婚をして、愛人の掛け替への無さの悟つた時の絶望が描かれる。ボーセアン夫人の達観が際立つ名作だ。[☆☆☆] "LA GRENADIÉRE"『柘榴屋敷』風俗研究の私生活情景に分類。身寄りなく残される二人の子供の境涯を嘆き、憔悴して露命を落とす女のうら寂しさが印象的だ。女が如何にして転落したかは謎に包まれてゐるが、為に一層陰のある女の神秘的な美しさを引き出してゐる。田園生活の描写は物悲しい憧憬に充ちてをり夕映えのやうに美しい。[☆] "UN DRAME AU BORD DE LA MER"『海辺の悲劇』哲学的研究に分類。ルイ・ランベールは海岸の岩場で見た苦行僧のやうな男の異様な印象に衝撃を受ける。語られた秘密は、溺愛した為に傍若無人に育つて仕舞つた極道息子を自らの手で海に沈めた父親の物語だつた。海辺の美しい景色と陰惨な事件との対比が痛々しい。[☆☆] "LE CONTRAT DE MARIAGE"『結婚契約』風俗研究の私生活情景に分類。ポール・ド・マネルヴィルは父から莫大な遺産を得るも生来の意志薄弱さから散財し、堅実な結婚により信用を得ることで安定した代議士生活を夢想する。結婚の非理を説く友人ド・マルセーの忠告を聞かず、郷里で家柄の良いエヴァンジェリスタ夫人の娘ナタリーとの結婚を急ぐ。夫人の多額の負債を喝破した老公証人マティアスがひとり奮闘、対する公証人ソロネをやり込め、夫人の野望を挫き、ポールを騙さうとする包囲網から救ひ出す件がこの作品の山場だ。しかし、有利な条件で夫婦財産契約をしたにも拘らず、終始無関心なポールはエヴァンジェリスタ母娘に食ひ物にされ、破産し国外逃亡する羽目になつた後日譚を読者は容易に想像出来て仕舞ふだらう。[☆☆] "L'INTERDICTION"『禁治産』風俗研究の私生活情景に分類。バルザックの筆が冴え渡つた名作。構成が巧い。妻の申し立てで禁治産宣告が迫るデスパール侯爵の運命を握る担当判事ポピノこそ本作の主人公だ。デスパール夫人の取り巻きラスティニャックと判事の甥に当たるビアンションの対話から物語が展開し、侯爵夫人の申し立てに隠された虚偽と狂人とされるデスパール卿の謎が次第に明らかになつて行く。風采の上がらない判事を取り込もうとする筈が、ポピノは権力に屈しない正義の人で、僅かな対話で夫人の奸計ばかりか多額の負債まで見抜く敏腕判事であつた。手に汗握る名場面。高潔なデスパール卿の秘密をポピノが引き出す場面も見事だ。そして、裁判所に回された圧力がポピノの正義を握り潰して仕舞ふ結末の虚しさこそバルザックの天才。[☆☆☆] "FACINO CANE"『ファチーノ・カーネ』風俗研究のパリ生活情景に分類。盲目の楽師にただならぬ気配を感じた主人公は、この男の口より奇想天外な生涯の秘密を明かされる。ヴィスコンティ家の家臣ファチーノ・カーネの末裔である強欲な男の波瀾万丈の人生が読者を魅せるだらう。結末を闇の中に葬るバルザックの手腕も心憎い。[☆] "PIERRE GRASSOU"『ピエール・グラスー』風俗研究のパリ生活風景に分類。画家グラスーは天才ではない。凡庸と云つてもよい。しかし、謙虚に勤勉に絵を描き続ける。さうした態度が評価され、幸運にも国王より勲章を得た。その結果、肖像画の依頼で安定した職業画家となり、かつてグラスーを馬鹿にした画家連中らに施しすらするやうになる。市民革命の結果、藝術もまた市民のものとなり俗化した。凡人グラスーの成功は、藝術の衰退の一歩であることを意地悪く揶揄した問題作。[☆☆☆] "UN PRINCE DE LA BOHÈME"『ボエームの王』風俗研究のパリ生活風景に分類。この作品でもバルザックの重層的な語りが縦横に駆使されてゐる。名家の末裔ラ・パリフェリーヌはボエームに身を落としてゐるが、貴族然としてをり周囲を魅了する。彼がほんの遊びで誘惑した元舞台女優クロディーヌは人妻でありながら献身的な愛を捧げて仕舞ふ。束縛を嫌ふボエームは厄介払ひしようと無理難題をふつかけるが、クロディーヌは夫をけしかけて出世させ全てを実現させる。連鎖が思はぬ結果に繋がる巧妙な作品。[☆☆] "LA RABOUILLEUSE"『ラブイユーズ』風俗研究の地方生活風景に分類。後期の作品の中でも読み手を夢中にさせる名作なのだが、評価は確立されてゐない。原因は主軸がわかりにくく、全てを分厚く描いたからだらうか。当初は『兄と弟』といふ題であつたが、背景の描写が肥大化し、主筋以外が充実し過ぎた。だが、バルザックは不要なことは何ひとつ書いてゐない。全てが『人間喜劇』内で回収されるのだから。『ラブイユーズ』はフロールの渾名であるが、主役としての存在感は情夫マクサンスと真の悪党フィリップにある。悪を制するに悪を以てす。勧善懲悪など薬にもせぬとばかり、悪と悪が雌雄を決する決闘の場面は忘れ難い。読者を錯覚させるのは善良なるジョゼフの敗走が効果的だからだ。それにしても登場人物全てが曲者揃ひで、各々の欠陥故に事態は救ひやうがない。『ラブイユーズ』が代表作成り得てゐないのは露悪的過ぎるからかも知れぬ。[☆☆☆☆] "UNE TÉNÉBREUSE AFFAIRE"『暗黒事件』政治生活情景に分類。『人劇喜劇』の中でも壮大かつ複雑な作品で、実在の傑物が登場する本格的な歴史小説でもあり、裁判の場面が盛り込まれた極上の推理小説でもある。前半は大革命で没落した貴族らの復権の物語で、亡命した親族と密かに繋がる女城主ローランスの気丈さと、汚名を被り乍らも主人の為に暗躍するミシューの大胆かつ慎重な行動により、命を賭した計画が成功する件は爽快極まりない。一転、後半は張り巡らされた陰謀により破滅へと導かれる。ローランスの献身とミシューの犠牲の末、事件は闇のまま葬られた。事件の真相は結びで語られるが、総裁政府、統領政府、第一帝政に至る政情不安定な時代背景を理解してゐないと難解だらう。保守と革新が虎視眈々と追ひ落としを謀り、一歩間違へれば断頭台の露と消える激動の時代。事件の真相はナポレオン失脚を想定してゐたフーシェが煙幕を張る為、密偵コランタンに命じてマランを幽閉し、ミシューら王党派の反逆事件を捏ち上げたといふ訳だ。ナポレオンを欺く為に手下マランをも罠に落とし込む恐るべしフーシェの策謀には唖然とする。[☆☆☆☆] "HONORINE"『オノリーヌ』風俗研究の私生活情景に分類。解き難い心理を扱つた問題作である。モーリス・ド・ロスタルが語るオクターヴ伯爵の綺譚が始まると俄然狂気を帯びる。妻オノリーヌの不貞と家出の後、伯爵はオノリーヌを監視し完全包囲する。オノリーヌは夫から逃れ隠れたと信じてゐるが、全てが伯爵の作り出した世界に庇護され生きてゐたのだ。常軌を逸した関係が描かれるが、秘書モーリスもまた隣人として使はされ、遂にはオノリーヌに魅せられて三角関係へと発展する。伯爵の寛容と無限の愛も決してオノリーヌには届かない。赦されることを望まない女は結婚制度に抗ひ続ける。女性の地位が低かつた時代の悲劇。[☆☆☆] "LE COUSIN PONS"『従兄ポンス』風俗研究のパリ生活風景に分類。『人間喜劇』の全構想がほぼ固まつた1846年に啓示を受けたやうに突如創作された2つの『貧しき縁者』―即ち『従妹ベット』『従兄ポンス』―の第2話で、着想から紆余曲折を経て膨れ上がつた後期の大作で、人物再登場の手法が縦横無尽に駆使されてゐる。零落れた老音楽家ポンスには美食家で食客を止められないといふ悪癖があつた。貧しく卑屈な食客を歓迎する家などない。ポンスは親戚からも嫌がらせを受け失意のどん底で病床に伏す。ところが、ポンスは骨董の目利きであり、パリ随一の美術蒐集家といふ一面を持つてゐたことが知られると、莫大な財産に目を付けた近隣の狐どもや一度は縁を断つた親類が狼のやうに襲いかかる。後半、遺言書を巡つて一時を争ふ激しい攻防戦が繰り広げられる緊迫した件は読者に本を置く余地を与へない。ポンスの抵抗も虚しく善良なる唯一の友シュムケ諸共、貪欲なハイエナどもの餌食となる喪失感はやり切れない。善意は為す術もなく、合法的な分捕りが無情に行はれる。フレジエ、カミュゾ夫人、シボの女房、悪党らの跋扈にバルザックの筆が冴え渡る傑作。[☆☆☆☆] |