楽興撰録

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ルイザ・テトラツィーニ


録音全集
グラモフォン録音(1908年〜1909年)
[Pearl GEMM CD 9221]

 20世紀初頭においてコロラチューラ・ソプラノの頂点に君臨したテトラツィーニの全録音集。限定生産で所持する外箱には1709のスタンパーが押されてある。5枚組の1枚目。ガリ=クルチが出現するまでは、テトラツィーニは絶対であつた。アジリタに安定感があり、かつ情味があり、劇的昂揚を表現出来る声を駆使した大物である。録音が古くなければ忘却の憂き目に遭ふことはなかつたであらう。収録された楽曲にはロッシーニ「セビーリャの理髪師」、ドニゼッティ「ルチア」より3曲、ヴェルディ「リゴレット」「トラヴィアータ」、グノー「ロメオとジュリエット」、ドリーブ「ラクメ」などコロラチューラの為の名曲が詰まつてゐる。特にルチアの歌唱は古今を通じても最高のひとりである。軽やかであり乍ら張りのある高音の伸びは圧巻だ。シュトラウスの「春の声」の躍動感も見事だ。


録音全集
グラモフォン録音(1909年〜1911年)
[Pearl GEMM CD 9222]

 5枚組の2枚目。天衣無縫と形容したいベル・カントの名アリアが兎にも角にも素晴らしい。グノー「ミレイユ」のワルツ、ドニゼッティ「シャモニーのリンダ」、ドリーブ「ラクメ」の鐘の歌、トーマ「ミニョン」、「ハムレット」の狂乱の場における融通無礙なアジリタは絶品であり、力強い高音の張りも兼ね備へてゐるから圧巻だ。ヴェルディ「ラ・トラヴィアータ」の「花から花へ」でこれ以上の軽快かつ輝きに充ちた歌唱は思い当たらない。それ以上に素晴らしいのは「シチリアの晩鐘」で、情熱的で躍動感ある歌唱は最高だ。チャピ「セベデオの娘たち」の沸き立つ情感も良い。テトラツィーニの真価が華麗なアジリアとフィオリトゥーラにあるのは勿論だが、後輩のガリ=クルチにはない中低音の情味のある歌も見事で、トスティ「セレナータ」やビゼー「カルメン」のミカエラのアリアを聴けば、テトラツィーニが死角を持たない名コロラチューラであることが解るだらう。


録音全集
グラモフォン録音(1912年〜1913年)
ヴィクター録音(1911年)
[Pearl GEMM CD 9223]

 5枚組の3枚目。アジリタに絶頂期の勢ひが感じられず幾分衰へを感じさせるが、華のあるフィオリトゥーラは健在で、女王の貫禄は充分だ。得意としたヴェルディ「トラヴィアータ」「仮面舞踏会」、ドニゼッティ「ルチア」、ベッリーニ「夢遊病の女」「清教徒」の素晴らしさは勿論だが、マイアベーア「ユグノー教徒」「北極星」、グノー「ファウスト」、リッチ「クリスピーノ」などの名唱は比類がない。特にブラーガ「天使のセレナード」の夢見るやうに美しい朗唱、チャピ「セベデオの娘たち」の燃え上がるやうなリズムにテトラツィーニの真価がある。


録音全集
ヴィクター録音(1911年〜1913年)
エンリーコ・カルーゾ(T)/マルセル・ジュールネ(Bs)、他
[Pearl GEMM CD 9224]

 5枚組の4枚目。当盤に収録された録音はかつて英Romophoneからも2枚組でヴィクター録音全集として復刻されてゐた。音質ならRomophoneの方が良いだらう。赤盤の看板コロラチューラとして最も輝いてゐた時代の記録で、悪からう筈がない。注目はヴィクター専属の大物歌手とのアンサンブルである。カルーゾ、ジュールネらとのドニゼッティ「ルチア」の六重唱、ヴェルディ「リゴレット」の四重唱は豪華な声の饗宴で、殊にカルーゾの強大な歌声には圧倒される。十八番であるトーマ「ミニョン」、ドリーブ「ラクメ」、ベッリーニ「夢遊病の女」、マイアベーア「ディノラ」の出来は極上だ。技巧的なプローチの「エアと変奏」や、ヴェラツィーニ「ロザリンダ」の軽やかな歌唱、ヴェンツァーノ"O che Assorta"の輝きに充ちた躍動も絶品である。


録音全集
ヴィクター録音(1914年〜1922年)
ゾノフォン録音(1903年〜1905年)
[Pearl GEMM CD 9225]

 5枚組の5枚目。1914年に録音された6曲は極めて復刻状態が悪いのが残念だ。第一次世界大戦勃発の影響が考へられる。歌唱は何れも好調で素晴らしい。特に「シャモニーのリンダ」「カルメン」「運命の力」「シチリアの晩鐘」が良い。1920年と1922年に録音された10曲は全て未発表となつた貴重な記録だ。引退期の録音といふことになり、選曲されてゐるのは平易な歌曲ばかりだが、1曲モーツァルトの夜の女王のアリアがある。劇的極まりない名唱で、テトラツィーニの残した傑作のひとつだ。歌曲はギターの伴奏による雰囲気たつぷりの名唱で、ドリゴ「セレナータ」などを堪能出来る。テトラツィーニの最初の録音となるゾノフォンへの5曲は大変重要である。コロラチューラ・ソプラノとして絶頂期にあり、ロッシーニ、ドニゼッティ、ベッリーニ、ヴェルディ、グノーのアリアが輝いてゐる。



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